それぞれの思い

〜 一周年記念 〜





「ね、ね、撩。これ見てよ、これ」

「んあ?」




読みかけの雑誌を顔からどかされ、視界に広がる眩しい陽射しに目を細めた。

午前中だというのに、相変わらず香のテンションは高い。




「おい、読書中だぞ」

「何言ってんのよ、エロ雑誌のくせに」

「…悪かったな」」

「それより、これ。かずえさんから借りたの」




嬉々とした香の手には、小さなカメラが握られている。




「ふ〜ん……」

「ね、一緒に撮ろうよ」

「はあ?」




何考えてんだ?こいつ




「写真は嫌いだ」




言い方がきつかったせいか香は顔を歪め、オレは少しだけ後悔した。






南米の山奥で、いろんな国から寄せ集めた奴らと戦った。

根っからのドンパチ好きもいたし、何かを背負って仕方なく参加している奴もいた。

オレみたいに、ゲリラの中でしか生きられない奴もいた。

毎日誰かが殺され、誰かを殺す。

自分に負けた奴は、狂って己の喉を掻き切る。

一瞬でも気を抜けない、極限状態。

そんな追い詰められた中で訪れる束の間の休息で

奴らは胸ポケットに忍ばせた家族や恋人の写真をみつめる。

どんな男も、そのひと時だけは戦いを忘れる。

オレはそんなものはもちろん持っちゃいないし、

何の役にも立たないセンチメンタルな気持ちなんか理解する気もなかった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







あ〜あ…

また撩を怒らせちゃった

何がいけなかったんだろう……




あたしは仲直りのコーヒーを淹れながら、考えた。




二人で撮った写真が一枚もない。

あいつ一人のは、高校の時に撮ったアホ面のものとかあるけど、

二人一緒に写ったものはない。

ないと気付いたら無性に欲しくなった。



それがあれば

もしも

万が一

その日がきたとしても

あいつの存在が確かに傍にあったと

夢ではなかったと

信じることができるって…―――






「さっきはスマン」




声に振り返ると、撩がキッチンの入り口に寄りかかっていた。




「あ…、あたしの方こそ、ご、ごめ……」




目元を袖口で擦って見上げると、撩がポンポン、とあたしの頭をたたき、

その手が何だかお母さんが赤ちゃんにするみたいで、不思議と落ち着いた。




「写真、嫌いだって知らなかった」

「ああ…」




撩はちょっと照れたようにポリッと頬を掻いた。




「オレさあ……、ほら、写真写り悪いからよ」

「ぶっ…」




あたしは例の写真を思い出した。




「そ、そうだね……、くくく……」

「お前ね、それは失礼なんでない?」

「ご、ごめん……、ぷくくっ……」

「おい〜〜っ」






それから、仕方がねえなぁ、とぼやきながらも、撩は写真を撮ってくれた。

セルフタイマーを仕掛けて、ちょっと緊張気味に並んで立って……






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







翌日、仕上がった写真をあいつは嬉しそうに見せた。

オレにも持ってて欲しいって渡そうとするから

お前はバカか?って言ったら

案の定むくれた。

だってよ、そんなもん身に付けて掴まってみろ?

どうなるかわかるだろうが。

香は渋々納得したようで、大事そうに写真をしまった。






ば〜か。

オレ様がそう簡単に掴まるはずはねえだろが。

あいつが出てったリビングで、オレはポケットからそれを取り出した。

街を歩く香を盗み撮りした写真。




今なら、あいつらの気持ちもわかる、な……




皺が寄ったその写真を指先で弾いた。




<End>







 <管理人のあとがき>


   † CH Paradise † もお陰さまで開店一周年を迎えることができました。

   本当にありがとうございます!!

   私が趣味でやってるこのサイトに、こんなに多くの方々が訪ねてきてくれて、

   そして読後の感想なども頂いたりして、毎日が楽しくあっという間の一年でした。

   これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



     ムツ 「いやあいやあ、おめでとうおめでとう」

     撩  「この一年、早かったか?遅かったか?」

     ムツ 「早かったよお。あっという間だったもん」

     撩  「歳くうと時間が早く過ぎるっていうからな」

     ムツ 「なんですとお?!」

     撩  「オレ様は万年ハタチだから、時間が経つのが遅くって遅くって・・・・・・」

     ムツ 「きさま、このメデタイ日に喧嘩売っとんのか。いい度胸やないけ」

     撩  「・・・お前、誰?」

     ムツ 「ワテはナニワのヤー公やっ! 新宿モンには負けへんでェ!」

     撩  「・・・・・・えーと、119番、いや、110番110番・・・・・・」

     ムツ 「あ、コラッ 何してんねん! やめっちゅうにっ!」