しくしくしく・・・・。
「おい、ミック。いい加減にしろよな」
「これが泣かずにいられるかっ。友人ならもっと慰めの言葉はねーのか?」
「元気だせって---」
「台詞を取って付けるな!!どーせオレの事なんかどうでもいいんだろっ!?」
「ああ。どーでもいいよ」
老いも若きも男も女も、世界中が浮き足立っているこの日に、隣がムサクルシイ男とは一体如何なものか。
先程から金髪男の大失恋話を延々と聞かされて、気がつけば月が真上に昇っていた。
大失恋と言っても、一体、何回目のかの大失恋。
早いトコ、コイツを寝床に帰した方が良いだろうと、腕を取って促すが、頑として動かない男。
このまま、放置して帰宅しても良いところだが、そうするといつまでも根に持たれて
ネチネチ、グダグダと引っ張られる事は経験上、判っていた。
こういう仕事を生業としている男は誰しも基本根暗なのだ。
何度かタイミングを見計らい席を立ちかけては失敗し、また座り直しダラダラとしている内に、
さっきから背後で胡散臭いオーラを出して、ねちっこい視線を一方的に送りつける影が、
ひとり増え、ふたり増え、何時の間にかどうにも収拾が着かないくらいに膨れ上がり、流石の数に、
日常茶飯事で慣れているとはいえ、今日ばかりは店主が心底迷惑そうな視線を寄越したものだから仕方なく、
強引に男の腕を取って席を立たせ、店を後にした途端、
ビシュ!!ビッツ!!
手当たり次第、数打ちゃ当たるの典型か。相手さんの幼稚な責め方に多少、眩暈を覚えた。
射的ゴッコをしてるんじゃねーんだよ。
銃弾の雨のいくつかが、頭上スレスレの煉瓦部分を掠め、欠片がパンッ、と吹っ飛び、
むぅ、とした砂煙が上がった。
「バカ野郎!!当たったらどーすんだっ!気をつけろっ」
「馬鹿はお前だ。真剣、当てに来てんだよ」
「なにぃ〜〜!?マジ!?」
「・・・今頃、気付いたのか?」
ノーテンキな酔いどれ男だが、大失恋したばっかりで傷心の身。よって虫の居所がかなり悪いから、
出来ればこれ以上はこいつの神経を逆撫でしないで頂きたい。
が、相手さんはそんな空気も読めやしねぇ・・・ま、読むはずも無いが。
「イヴに暇人共が揃いも揃って・・・・イヤだねぇ。これだからモテナイ君は」
「お前もだろうが」
一度吐いてしまった言葉は二度と戻らない。
とき既に遅し。
シュンとした表情から、今度は淋しそうに訴えかけるような表情。何か嫌な予感・・・・
「ねぇ、リョウちゃん、リョウちゃん。今日、リョウちゃんちにお泊りしていい?ハミガキとパンツ持ってきたから」
的・中。
「この前も勝手に転がり込んで、あの時のハブラシ置いてってるし。しかもピンク。
・・・・・・・・・・ん?だあああっ!そうじゃなくてっ、断るっ、こーとわる」
「そんな冷たい事言わずに、さぁ。それともまた女でも連れ込んでるのか?ジュリアか?それともアンジィ?」
「名前なんかいちいち覚えてられっかよ。テキトーに拾い拾われの付き合いだし」
「うわっ、最低ー、」
「お前に言われたかねーよ」
ビシィ!!ビッビッ・・!
大げさに手を震わせ、ワザとらしく祈るように胸の前で両手を合わせたが、口元には愉しげに笑みが浮かぶ。
そして念願叶ってシティーハンターを路地裏に追い詰めたと興奮状態の相手さんに向かって
思いっきり突き上げた指先。
あーあ。やっちまった。
ビシィ!!!!バシュ!!ビシュッッッツッツ!!!!
「段々増えてるぅ〜どーするどーする?」
「お前が勝手にややこしくしてンじゃねぇか」
「ワクワクしちゃうね」
「お前のワクワクに俺を巻き込むな」
置かれた状況は最悪、最低が面白い。ゲームはより複雑で愉しくなければ、と。
止せばいいのに相手を更に挑発する事を忘れないのは相変わらずで、
頑張る方向性が多少ズレてる相棒に、撩は呆れてしまうのだが、この男こそ
自分の背中を預けれられる唯一の男なのだと、絶大な信頼を置いているのは確かだ。
そして実際の所は俺達を追い詰めたのではなく、追い詰めたのは俺達の方なのを、
あの馬鹿野郎共は全く以って解っちゃいない。
「あ。ひとつイイ?」
「この状況でか?」
「うん!」
「・・・なんだよ」
「この前、『リョウはセックスは強くて上手いけど、全然感情が籠もってない』ってさ。苦情来てたよ?」
「何でお前に苦情・・・つか、俺の性生活を暴露しやがったのはどこのどいつだ?」
「言えない。彼女のプライバシーが大切だし。っつーか、名前言ってもお前、どうせ覚えてないでしょ?」
「おいこら、俺のプライバシーはどうでもイイのか」
「ま、良いじゃん〜。それに可愛い彼女のアフターケアは俺がじっくりとしておいたから♪」
「さいですか。そりゃどーも」
「彼女、リョウに本気で惚れてたんだぜ?」
「そーゆー女は面倒だ。お前にやる」
「お、それ覚えておくぞ?お前の周りって結構イイ女揃いだからなーあとで後悔しても知らねーよ?」
「くどい」
「安心しろ。可哀想な女の子を増やさない為にも飽き性のお前に代わって、オレが幸せにしてやるさ」
「ハイハイ、わかったわかった。その時は頼むぜ。おらっ、いい加減コイツらのラヴコールに応えてやろうぜ」
「オーケィ!」
いつかのクリスマス・イヴ。はるか遠い昔の話。
くく、と思わず漏れた声に、懐に抱いていた毛布がもぞり、と緩やかな波を立てた。
「・・・・朝っぱらから、何、思い出し笑い?」
毛布から、ちょこんと覗いた黒く大きな瞳が、すぅーーと細められ、
そこには軽蔑の色がアリアリと浮かんでいる。
「おはよー、香ちゃん。ご機嫌如何?」
「しんどい、サイアク、サイテー。躰全体がダルイ」
「あんだけ深く何度も愛し合っちゃうと、流石に腹減るよね」
「・・え・・あ、ちょっとぉ?!・・・こ、こらぁっ・・・っ」
ツツツ、と口元を尖らせて迫る撩の唇に、香は何時の間にか手にしたケーキの欠片を押し当て、
意表を付かれた行動に思わず開けた口にそれはポイと放り込まれ、
あっという間に甘いスポンジが口の中に広がった。
ベッドサイドに置かれたクリスマスケーキが歪な形に拉げているのは勿論、
フォークを使って上品な食べ方をしたのではなく、指先に乗っけたり、胸元に乗っけたり・・・・
おっと、これ以上は、な。
「それでも食べて、もう少し大人しくしててっ。あたし、もう少し寝るしっ」
「あ、はいはい。ゆっくり休んでねー。今晩もあるしー」
「!!」
スキモノめっっ。
言われ過ぎてもう今となっては聞き慣れてしまった捨て台詞を残し、
再び頭まで毛布に潜り込んだ香の躰を抱き直した。
少し抵抗する素振りも、強引に引き寄せれば大人しく従う。
柔らかい髪を指で梳き、指先を頬に滑らせ、唇をなぞると、かぷり、と甘く噛まれた。
「って」
痛みは無いが条件反射で引っ込めた指先。
「だから駄目だってば」
そんなに睨んでも怖くない。
構わず、唇を香のそれに近づければ、黒目がちの瞳がグラリと揺れた。
「・・・・だ、だから駄目・・・だって」
ったく・・・惚れられるのは面倒だって?
一体どの口がそんな事を言ったのか・・・・。
だがあの時の会話を、ミックは全く覚えてないようだ。
覚えていたとしても構いやしねぇ。
何せ、俺も惚れてンだから。
可哀想な女どころか、彼女はHappyと言っても良いんじゃね?
「うわっ、お前、それキッタネ〜〜〜〜!!」
と言われそうだが約束は破ってない、だろ?
だからこいつは誰にもやらない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
・Merry X'mas!
ジルと奈瀬より愛を込めて。
実はもう一年前以上前に奈瀬さんからこの絵を頂いていたのですが
私が寝かせまくっていたのでございます。
しかも今年のクリスマスも過ぎてるやん(汗)
今回、ムツしゃんのサイト復活もあって、こちらに投稿させて頂きましたv
<ムツゴロウのあとがき>
いや〜〜〜ん、ジルしゃんだけでなく、奈瀬さんの素敵なイラまで頂いちゃって、
感激でござるよ〜。ありがとう〜〜〜(>_<)
こんなクリスマスもいいわねぇ。思い出し笑いをする人はスケベだっていうけど、本当ね。
やはりあの二人は昔から張り合ってたのね。腕もナニも。(笑)
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