縁 日

  「ねえ、ヨーヨーすくいやってるよ」
  「ああ?」

  はしゃぐ香の声に、撩が億劫そうにそちらを見る。

  無事に依頼を終えた帰り道、小さな神社の縁日に遭遇した。
  
  「見ていこうよ」
  「しょうがねえなぁ」
  香のねだる声に、撩は車を止めた。

  神社の規模は小さかったが、かなりの人出だった。

  「ねえ、ヨーヨーすくい、やろうよ」
  香は、ヨーヨーの浮かぶ小さなプールの前に座り込んだ。

  真剣に、金具のついた糸を持って、ヨーヨーをにらむ香に、撩は笑みを浮かべた。
  そーっと、そーっと、こよりが水に濡れないようにゴムの輪になった部分に金具を近づける。

  その真剣な様子がおかしくて、ついつい意地悪をしたくなった。
  「かかった!」
  嬉しそうな声を合図に、声を上げた。
  「あ!!」
  いきなり背後から聞こえた声にびっくりして、香はこよりを水につけてしまった。
  「あ〜あ」
  がっかりした香は、背後の撩をにらんだ。
  「何よ! なんなの?!」
  八つ当たり気味に声を上げる香に、撩はとぼけて笑って見せた。
  「ん〜。向こうにもっこり浴衣美人がいたと思ったんだけど、見間違いだった」
  「もう!!」
  香は撩をおいて歩き出した。
  くるくる変わる香の表情に撩は隠し切れない笑みを浮かべながら、後についていった。


  「ねえ、お面買おうよ」
  そう言うと、香は撩の返事も待たずにさっさとお面屋に向かう。

  撩が追いついた頃には、もう香はお面を二つ買って手に持っていた。
  「はい」
  香は撩をかがませて頭にお面をかけた。
  自分ももうひとつのお面を自分の頭にかけてまた歩き出す。

  「アレ、食いたい」
  たこ焼きを買って、歩きながら食べる撩を見て香がうらやましそうにした。
  「食う?」
  「うん!」
  「ほい」
  「・・・え?」
  楊枝に刺してたこ焼きを突き出されて香が戸惑う。
  「ほら、口開けろよ」
  香はちょっときょろきょろ周りを見ると、意を決して口を開ける。
  「あ〜ん」
  もぐもぐと食べる香に撩がいたずらっぽく問いかける。
  「美味い?」
  「・・・うん」
  ちょっと赤くなった香に撩が笑った。


  人垣の向こうには射的屋が見えた。
  棚にはたくさんの景品が並んでいた。
  「可愛い〜」
  棚に並ぶウサギのぬいぐるみを見て香が声を上げた。
  通り過ぎながら、香が何度も振り返った。

  少し歩くと撩は香に言った。
  「ちょっと、待ってろよ」
  そう言うと、撩は踵を返して戻って行った。
  「ちょっと、撩! 何なのよ、もう!! もっこりちゃんでも見つけたわけ!?」
  香の叫ぶ声が辺りに響いた。

  少しして撩が元の場所に戻ってきた。
  手にはウサギのぬいぐるみがある。
  けれど香が見当たらない。

  周りを見回す。
  けれど見えるのは、
  いい匂いを出している出店。
  浴衣で出歩く家族連れ。
  腕を組んで歩くカップル。

  焦りが出る。


  香はどこだ?


  香の姿を求めて走り出しそうになった瞬間。

  「撩!」
  求めた声がした。
  そちらに顔を向けると、道から外れた木の下で香が手を振っていた。
  そちらに大またで歩き寄ると、撩は機嫌の悪そうな声を出した。
  「何でさっきのところで待ってないんだよ」
  「だって、あそこじゃわかりにくいでしょ」
  差し出されたウサギのぬいぐるみに嬉しそうに笑った。
  「ありがとう。撩」
  その顔に、撩も自然と笑みが浮かんだ。


  「さて、そろそろ帰るぞ」
  「うん」
  先に歩き出した香に小走りで追いつくと撩は香の手を握った。
  びっくりして見上げた香に撩はにやっと笑った。

  「迷子防止」


  ずうっとな。
  心の中で撩はそっと笑った。




     <管理人あとがき>

       相互リンク記念にと、 め〜さまから頂戴いたしました。

       生意気にも、私のリクエストは「祭の縁日でラブラブな二人」。

       まさに! そのとおり!! 

       め〜さま、本当にありがとうございました。