寂寞



 

 


 ぽたん

 

 ぽたん

 

 

 シンクに落ちる、水滴が、耳に残る。

 

 

 ぽたん

 

 ぽたん

 

 

 台所で、ひとり、水滴の音を聞いている。

 

 





 
 いつのまに、私はこんなにも弱くなってしまったのだろう。 

 いつのまに、私はひとりで待つことができなくなったのだろう。

 


 これまでも、私のせいでリョウに怪我を負わせたことは何度か体験しているというのに。

 いつだって、夜の中へと消えたリョウをひとり待っていたというのに。

 


 



 リョウは・・・まだ帰ってこない。

 

 





 いつもであれば、リビングの明るい光の下で待つのだけれど。

 今日は、それができなかった。

 昨日の今日だから、できなかった。

 

 



 リョウに怪我を負わせてしまったのは、つい昨日のこと。

 私を庇い作ってしまった、傷。

 左腕を赤く染めた、傷。

 


 
 私を守る・・・・そう云うリョウが、とても力強くてほっとする。

 だから私もリョウを守りたいと思うのに。

 

 リョウの側にいればいるほど、私は弱くなっていく。

 リョウが側にいないと、私はもっと弱くなっていく。

 

 



 
 どうしよう。

 

 




 リョウのココロを知ってから。

 リョウのすべてを知ってから。

 

 私は、こんなにも弱くなってしまった。

 涙が溢れるくらい、私は弱くなってしまった。

 

 

 






 リョウが私を、弱くした。

 

 







「香?」

 

 

 呼ばれて顔を上げると、そこにはリョウが驚いた顔で立っていた。


「どうしたんだ、台所で?何かあったのか?」

 

 いつもの口調で近づくき、にやりと笑いかける。

 そして、何も云わない私を力強く抱き寄せた。


「・・・まったく、何心配してんだ?大丈夫だっていったろ」


 リョウの逞しい胸が、力強い腕が、温かい体温が、低く囁く声が

 私を安心させる。


 少し気恥ずかしいけれど。

 まだこの体勢になじめないけれど。


 でも・・・。

 こうしてリョウに抱きしめてもらうと、安心できる。

 先ほどまで渦巻いていた、弱さも不安もすべて溶けてしまう。

 

 

「大丈夫だ」

 

「ん・・・・」

 

 

 



 リョウは、私を弱くした。

 

 でも。

 

 リョウが側にいてくれれば、私は強くなれる。

 リョウが側にいてくれれば、何だってできる。

 

 



 だから。

 

 


 リョウ。

 私を離さないで。

 

 

 私をひとりにしないで。

 

 

 



 リョウ。




 




 





***** いいわけ *****

 

私の中には、静かに強い・・・という香のイメージがあります。
我慢するのではなく、それがアタリマエという姿。

だから
自分の中にある、リョウへの想いは
香にとって弱い部分ではないかな・・・そう思っています。

そういう部分を書いてみたかった。
弱い自分を感じ、切なくリョウを待つ香を書いてみたかった。


どうにも、女々しい香となりました。
玉砕です。
それなのに、ムツゴロウさまへと渡してしまう私。
あうう
ごめんよ



ちなみに
「寂寞(せきばく・じゃくまく)」とは
ひっそりとして、もの静かなこと。

香の心境って、そういうもんだろうなぁ・・・と。




 

<管理人のコメント>

 

いつもお世話になっているもとこさまから
素敵な作品を頂戴いたしました。

香は、強い面と弱い面、両方持ち合わせているから
あんなに魅力的な女性なのだと
ムツゴロウは思います。

でもって、弱い面を知るのはリョウだけでいいの。

と、これまた勝手に思うのであります。

もとこさま
本当にありがとうございました。

またのお越しをお待ちしておりま〜す。