痕跡









 
くるり・・・


 くるり・・・






 ゆっくりと白い包帯を巻いていく。
 
 




 くるり・・・


 くるり・・・






 リョウの左腕にできた、傷。




 狙いを付けられたのは、私を助けようと伸ばされた左腕。


 鋭い音。


 引き寄せられる体。


 リョウの胸。


 そして・・・・左腕は、紅く染まっていた。








 ヒトコトもしゃべらないまま、部屋へと戻ってきた。


 薄暗い部屋に明かりもつけず、ぺたりと窓の側へと座り込む。






 すぐには現実へと戻れない。


 光と闇の間。






 ぼんやりとしたこの世界で、一呼吸をする。


 暗闇での世界での傷を、光の世界へと持ち込まぬように。


 重苦しい思いを、少しでも軽くするように。

 






 
 
 私は、無言のまま消毒薬とガーゼを救急箱から取り出す。


 リョウは、無言のままTシャツを脱ぎ左腕を差し出す。





 
 逞しいリョウの腕には無数の傷痕。


 
 


 私の知らない、傷痕がある。


 私の知っている、傷痕がある。
 




 
 そして。


 今ここに、新しい傷跡ができている。






 この傷跡すべてが、リョウの生きてきた証。






 

 くるり・・・


 くるり・・・





 
 逞しいリョウの腕に、白い包帯を巻いていく。






 最初は、こんな傷を間近で見ることすらできなかった。


 以前は、きちんと包帯を巻くことはできなかった。






 だけど。


 今の私は、綺麗に左腕を包帯で巻き上げる。






 この包帯こそが、私がリョウと歩いてきたすべて。










 これ以上、傷を増やしたくはない。


 これ以上、傷を増やさせはしない。


 






 
 私がリョウを守る。











 




<管理人のコメント>

これは過日、もとこさまに頂いた
「寂寞」の前日のお話です。

いつもいつもリョウのケガの手当てをしている
カオリンは辛いことこの上なしだと思うのです。
だから自分が強くなってリョウを守るなんて
なんて健気な・・・ううっ

誰かの為に負った傷
自分の為に負った傷

そのひとつひとつが
リョウの生きていた証なんだよね。

もとこさま、本当に
ありがとうございました〜〜〜!