花火

 


「あ! 花火!」





依頼を終えてアパートへ戻る途中、助手席からすっとんきょうな声が上がる。



「はあ? 何言ってんだよ。ここ、山の中だぞ。何かの見間違いじゃないのか?」



ハンドルを握りながら呆れたように助手席を見る。いくつもの曲がりくねったカーブの続く山道で、

花火どころか街路灯すらもない場所だ。




「だって、見えたもん。」



香は頬を膨らませて口を尖らせている。

ったく、ガキみたいなことを、と思ったが仕方がない。

車を徐行させて辺りを見回すが、やはりそんなものはどこにも見えない。



「見間違いだろ?どこに花火なんか・・・」



そう言いかけたオレの視界の端っこに眩い閃光が映った。









                  







「お・・・ほんとだ。」




見晴らしのいい場所に車を停めてハザードランプを点滅させる。

車がまだちゃんと停止しないうちに、香は外へと飛び出した。



おいおい、あぶねえだろ?

そっちは谷側だぞ。わかってんのかよ。



「わあ、すご〜い! 撩、見てよ。」



ドアを閉めて反対側へと廻ったオレは、早く早くと手招きする香の元へと歩いた。



「ほお〜・・・。これはこれは・・・」



切り立った崖に近づいてみると、遥か遠くに東京の夜景が広がる。

高層ビルをバックにしていくつもの花火が上がっていた。






ドーン・・・・・








放たれた光から かなり遅れて小さく響くその音が、距離の遠さを示している。



「きれ〜い!」



まるで生まれて初めて花火を見た子供のようにはしゃぐ香を黙って見つめる。



「こうも離れちゃうと、何だか花火を見下ろしているみたいだね。」




たしかに。

オレも今そう思っていたところなんだ。




車に寄りかかり煙草に火をつける。

隣ではしゃいでいた香がとたんに嫌そうな声を出した。



「もう・・・せっかく花火を見ているのに、煙で見えづらいじゃないのよ。」




知らんのか?

これは虫よけにもなるんだぞ。

まあ、いいや。




最後の一服を思いきり吸ったあと、まだ長い煙草を揉み消す。

香はありがとう、と微笑み、オレの隣で同じように車に寄りかかった。




「こんな場所、きっと誰も知らないよね。」

「ああ。」

「あたしたちの特等席だね。」

「そうだな。」




花火はフィナーレに近づいたのか、盛大に上がっている。

しばらくの間、黙って遠くの花火を眺めた。








『来年も・・・』




二人同時に同じ言葉を発する。

思わず顔を見合わせて笑ってしまった。





―― 来年も一緒に来ようね


―― ああ






<End>










        < あとがき >

           今日は私の住んでいる街の花火大会です。まさにニッポンの夏!!!!だよね。

           そしてやっぱり、「とりあえず ビール!」なんだよなあ・・・。





           撩  「今回はなんだか盛り上がりに欠けてねえか?」

           ムツ 「うっ・・・・・(実はちょっと気にしてた)」

           撩  「つまんねえなぁ。もっとさあ、映画みたいにドラマチックに、こう・・・」

           ムツ 「ゲッ・・・・(だって長話は辛いのよ)」

           撩  「オレ達以外の登場人物って出てこねえの?いい加減、香ばっかだとあきたよ。」

           ムツ 「(ブチッ)・・・わかったわよ。次回は脇役揃えてやる! 

               そして、あんたたちを徹底的に邪魔してやるわっ!!お〜ほっほっほ・・・(キレた)」   

           撩  「・・・・・・・・(し、しまった・・・)」