お花見をしよう









『……今年は暖冬の影響で、例年より○○日も早く開花宣言が出されました―――』





そんなニュースがテレビから流れてはや10日。

かなり前から香は花見をしよう、と言って浮かれていた。喫茶店の定休日に

呼ばなくてもいい奴等まで呼んで、教授宅の庭で宴会をしよう、と計画を立てていたのだ。

なのに、貧乏暇なしの冴羽商事のはずが、珍しいことにいくつかの依頼を抱えて

駆けずり回っている間に桜は散ってしまったのだ。



仕方がないっちゃぁ、仕方がないんだが、

ああも見事に落ち込んでいる香を見ちまうと、どうも、な。

確かにこんな稼業をしていると、来年の花見の約束なんてできねぇし……

ふ〜〜〜っ 機嫌取りにでも行くとするか。



オレは いよっと掛け声をかけて立ち上がった。







「結局、そのへんの公園の桜を通りすがりに横目で見るだけしかできなかったのよね。

 今年の花見は」

「そうなのよぉ。来年こそ、絶対一緒に花見をしようよ、美樹さん」

「そうね。できるといいわね」

「それにしても、も〜〜〜っ 悔しいなぁ。どうしてこんな時期に依頼が重なったんだろう」

「依頼がない時はないで、悔しいんだろ? カオリ」

「う〜〜…… それは言わないでよ。余計に落ち込むから」

「はっははっ」



キャッツに足を踏み入れると、ちょうど花見の話題で盛り上がっている所だった。



「あら、冴羽さん。いらっしゃい」


美樹ちゃんの声で香が振り向く。


「やっと起きたの?遅いじゃない」

「うるせぇよ。誰かさんのいびきがすごくて寝不足だったんだよ」

「ちょっと!!何言ってるのよ。んなワケないでしょ?!」

「へぇ〜〜。そういうこと、か。やるじゃん、カオリ」


ミックの野郎がニヤニヤと笑いながらカオリを突付く。


「じょ、冗談に決まってるじゃない。ミックったら……」




美樹ちゃん達は敢えて突っ込まないで流していてくれているけどな。

顔を真っ赤にして口だけパクパクさせているのを見れば、バレバレだっつうの。

オレはミックと香の間に割り込むようにして席についた。

一瞬だけミックが嫌そうな顔をしたが、そんなの知ったこっちゃねぇ。




「香。これ、この間の依頼人から貰った」

「え?なに?………って、これ、花巻温泉の招待券じゃない」

「ああ。そこの旅館のオーナーもやってるんだと」

「へぇ〜。あの人、凄いお金持ちだったんだ。そうは見えなかったけど」

「折角だから、お前、美樹ちゃんと行ってこいよ」

「ええ?!! いいの?」




びっくりしたのか、デカい目が一層デカくなってるぞ、おい。

香のあまりの驚き様に、オレは笑いを押えるのに苦労した。




「美肌の湯に浸かれば、いくらお前でも少しは女らしくなるんでない?」

「煩いわね! 一言余計なのよ。ふんっ!」

「そうだ。ついでに、花見でもしてくれば?東北ならまだだろ?」

「あっ!! そういう手があったわね」




ニコニコしながら美樹ちゃんに招待券を見せている香を、オレは黙って見ていた。

あんな嬉しそうな顔が見られりゃ、わざわざチケットとった甲斐があるってもんさ。




「でも、いいのかしら、冴羽さん。あたしが行っても。二人で行ったほうが良いんじゃ…・・」


美樹ちゃんが申し訳なさそうに言った。


「いいって、いいって。温泉なら、女同士の方がいいだろ?」

「それはそうだけど…」

「撩は花見しなくてもいいの?」

「ああ。オレなら一足先にさせてもらったから」

「え? いつよ」


オレはニヤリと笑った。


「昨夜もベッドの上でたっぷりと……」



バッコーーーーン!!









香が店を出て行った後、ぐしゃぐしゃに潰されたオレを見て、ミックが呟いた。



「お前、ほんと素直じゃないよ」

「……うっせえ」





<End>




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 <あとがき>

  長らく更新しておりませんでしたが、ようやく書ける状態に戻りつつあります。
  
  ってことで、復帰第一作でした。短くてスンマセン。



  ムツ 「まったく・・・・・・ちょっと目を離すとこれだから・・・」

  撩  「オレが何したって言うんだよ」

  ムツ 「自分の胸に手を当ててよく聞くんだね」

  撩  「オレがどこでどんな花を見たって勝手だろ?」(ニヤリ)

  ムツ 「ゆ・る・さ〜〜んっ!」

  撩  「あいつ、肌白いから目立つんだよな」

  ムツ 「ブーッ (お茶を吹きこぼす) まだ言うか!」

  撩  「んでもって、その花はオレにしか見れないの。くっくっくっ・・・」

  ムツ 「・・・・・・楽しそうだな、おい。調子に乗ってっと・・・」

  撩  「やべっ! ってことでオレは帰る」

  ムツ 「待て、こらっ!!」