冴羽家のIT革命









オレはすこぶる機嫌が悪かった。


隣にあるはずの温もりがなかったのがそもそもの発端だった。

テーブルの上には、伝言板を見に行ってくるといういつもの書置き。

そして


“P.S. 天気がいいから蒲団くらい干しておいてね”


という走り書き。



「フン! やってらんねぇよ」



メモを指で弾く。

そんな気はさらさらない。

何でオレ様が主夫みてぇこと、しなきゃなんねんだよ!

やらなきゃ香がやるだろう、と勝手に決め込む。

遅すぎる朝食を摂り、ナンパに出ようとしたら…財布の中身がない!

昨夜、というか明るくなり始めた頃に帰った時には、確かに札が何枚か残っていたはずだ。

考えられることはただひとつ…。



「くそ〜〜〜〜〜〜!!!香の奴、オレをここから出さない気だな!」



ミックに誘われてベロベロに酔っ払って帰ったオレも悪いけどさ、こんなのありかよ。

仕方がないので、ソファでふて寝を決め込むことにした。

まどろみの中でうとうとし始めた頃、玄関の扉が開き、パタパタと廊下を走る音が聞こえてきた。



「あらっ 撩。まだ寝てるの?」

走ってきたのか、息も荒い香がリビングを覗く。



「ん…んあ〜〜〜〜っ」

あくびをして頭だけ起こす。



「いい加減にしてよ。もう夕方よ」

しぶしぶと起き上がり、頭をボリボリと掻く。



「…コーヒー」



しょうがないわね、と言いながら、買い物袋を抱えてキッチンへと向かう後ろ姿を目で追う。

誰のせいだと思ってるんだよっ、とブツブツ呟きながら醒めやらぬ頭でボンヤリしていると

コーヒーカップを両手に持って香が戻ってきた。



「ねえ、撩。ちょっと相談があるんだけど…」

「なんだよ」

「あのね、インターネットのメールを使って依頼を受けるようにできないかな?」

「はぁ?メールだって?」

「そう。そうすれば、伝言板よりも用件は詳しく判るし、こっちの正体がバレる心配もないし…」



チラリと香の顔を見ると、やや興奮気味に熱く語っている。

ははぁ…さては、キャッツあたりで誰かに吹き込まれたな?



「ちょっと、撩?聞いてるの?あたしの話」

「ん?聞いてるよ」

「で、どう思う?」

「却下」

「な、なんで?どうして即答なのよ」

「だ〜って、機械音痴のおまえがパソコン、使えるのか?」



香はいきなり核心に触れられ、ぐっと答えに詰まっている。

その様子を見ていると、なんだか憂さ晴らしをしているようないい気分になってきた。

ようし、もう少し言ってやろう…。



「や、やあねぇ、誰だって練習すれば…」

「練習って、おまえがぶっ壊すのがオチだろ?金がいくらあっても足りん」

「そんなぁ…。じゃあさ、携帯のメールならどう?あれなら壊しても高くないでしょ?」

「却下」

「どうして?」

「伝言板見に行かねぇと、おまえ、あっという間に太るぞ」

「は?」

「毎日あそこまで往復するのがいい運動になってるだろ?」

「それは確かにそうだけど…」

「そんなにパートナーとしての仕事、やりたくないのか?」

「そ、そんなこと…ない」

「で?一体誰がおまえに言ったんだ?メールのこと」

「…唯香ちゃん…」



やっぱり…。


本当は現実的な問題が色々あって否定したのだが、それは敢えて言わないことにする。

しょんぼりとうな垂れる香を見ていると、ちょっと言い過ぎたかな、という気がしてきた。

パートナー云々という話題を持ち出すと、香を傷つけることは判っていたのに。

しかたがない。ここはオレが折れるか…。



「ま、もう少し金を稼げれば考えないでもないがな」

「ほんと?」


泣き出しそうな顔をしていた香に、やっと笑顔が戻った。



「ああ。それより、腹減った。メシにしてくれ」

「あ、はいはい。今日は土用の丑の日だから、奮発してうなぎにしたわよ」

「お〜っ!!!久しぶりだな」

「うな丼にする?それとも、うな重がいい?」

「香ちゃんったら、そんなにオレに精をつけさせたいの?」

「は?何を…」

「いいって、いいって。確かに昨日はお相手してあげられなかったけどさ。だからって、ねぇ」

「ちょっと、何言っているのよ」

「いやいや、積極的な香ちゃんもなかなか…」


壁際にジリジリと追い詰める。


「バ、バカじゃないの?あんたったら、考えることそればっかり」

「いや〜。楽しみだなぁ。パワーアップしたオレのお相手、きっちりして貰いましょう」


嫌がる香を抱え上げてリビングを後にする。


「も〜〜〜いや!どうしてあんたって昔っからこうなの?」



だって、本能のままに生きてんだからさ。

だから、オレにはIT革命なんて必要ないんだって。

 

 

<End>





                    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





   <あとがき>


   この作品は、とある仲良しのサイト様でキリ番を踏んだのですが、

   実はそれがトラップだったということで、逆に納品をする羽目に(笑)なり、書いたものです。

   2001年5月のことでした。私がサイトの開設の準備というか勉強に追われ、

   HTMLとは何ぞや?ということから格闘していた時期でしたね。懐かしい・・・。

   そのサイト様も閉鎖されてしまいましたので、ここにアップさせていただきました。

   IT革命って、森総理の時でしたっけ?流行りましたのは・・・・・・歴史を感じます。



     ムツ  「シティーハンターもいつまで伝言板だけでやっていけないのにね」

     撩   「そうだなぁ。そろそろメールでの依頼とか、考えたほうがいいだろうけどなぁ・・・」

     ムツ  「やっぱ、カオリンの破壊力が問題?」

     撩   「あれは死んでも治らんだろうな。どうして壊すのか、ワケわからん」

     ムツ  「もしかして、静電気体質、とか」

     撩   「そんなかわいいもんじゃないだろ、あれは。世の中に取説ってもんが

          あることを知らないとしか思えない。字が読めんワケじゃないだろう」

     ムツ  「日本人は、世界で一番取説読まない国民らしいからねぇ」

     撩   「台所のものだって、オレが手取り足取り・・・」

     ムツ  「そう、手取り足取り・・・・・・・って、おいっ! 役得じゃないの!」

     撩   「ん?・・・・・・そうともいうかな」 (ニヤ)

     ムツ  「ちょっと! なに思い出し笑いしてんのよっ」(殴)

     撩   「い〜や、べっつにぃ〜〜。
   
          まぁ、そろそろ香にパソコンの使い方教えてやってもいいかもしれんな」(ニヤニヤ)

     ムツ  「あ、あんたの頭の中が透けて見える・・・・・・ゆ、ゆるせんっ」