素直になった二人



「もうすぐ着くね」

「ああ」



奥多摩教会からの帰り道、リョウと香はあまり言葉を交わさなかった。

疲れていたせいかもしれない。

しかしそれよりも、香はリョウのあの言葉を思い返し、胸を熱くさせていたのだ。

今まで、曖昧な態度で伝えられなかった互いの想いが通い始めた、ように思える。



(私も素直にならなきゃ……。)

香は窓に映る新宿の見慣れた景色をぼんやり眺めながら、そう考えていた。





クロイツ将軍の卑劣な攻撃の中、リョウは

愛する者のために生きのび、愛する者を守りぬく

という強い意志のもと、香を無事に救い出したのだ。

幸い、重傷を負ったが美樹も一命を取り留めることができた。



(ちっ。柄にもなく恥ずかしいことを言っちまったぜ。)

リョウも愛車を運転しながら香と同じ場面を思い起こしていた。

(けど、そろそろ限界だもんな・・・。)

リョウは窓の外をぼんやり眺める香を横目で見ながらそう思った。



香がシャワーを終えてリビングへ戻ったとき、

リョウはウイスキーの入ったグラスを片手に、ベランダに佇んでいた。



「何を見ているの?」

香は声をかけた。

「うん?あぁ、・・・月を見てた」

そういえば、今夜は満月だ。

「きれいね」

「あぁ」



しばらく二人で黙って月を眺めた。

高層ビルの上に、やや低い位置に赤みを帯びた月が見える。

息の詰まるような沈黙を先に破ったのはリョウだった。



「あの・・・さ、香」

「なぁに?」

「シティーハンターの・・・・・・俺のパートナーでいる限り、

今日のような事は何度もあるだろう。おまえは、それに耐えられるか?」

・・・・・・?」


(え?何?危ないからパートナーを解消しようっていうこと?そんなのイヤよ!)


「おまえはそれでも、おれの・・・・・・そばに居たいと思うのか?それで幸せか?」

・・・当たり前じゃない!!」

香の口から關を切ったように言葉が飛び出した。

「あたしの身の安全の為に、幸せの為にって言ってるの?

馬鹿にしないでよ!あたしの幸せは・・・


(
どうしよう。止まらない!!)


「あたしの幸せは、リョウのそばでパートナーとして生きる事よ!

あたしの幸せを奪わないで!!」

・・・香」

香の目から一筋の涙が流れる。

「すまん」

リョウの腕が香の腰を強く抱き寄せた。

手にしていたグラスが落ち、音を立てて割れた。

そして、香もリョウの広い背中にきつく腕をまわした。

二人は唇を重ねた。



長いキスだった。そっと唇を離してリョウが香の耳元で囁いた。

「おまえの幸せは誰にも奪うことはできないさ」

「・・・リョウ」

香はリョウの顔を見上げて微笑んだ。

「ありがとう。嬉しい。でも、あたしも頑張るから。

リョウの足手まといにならないように腕を上げるからね」

「頼もしいな」

ふたりは顔を見合わせて ふふっと笑った。



二人はリビングを出て、上階のリョウの部屋へ向かった。

どちらが誘ったわけでもない。

自然と足がそこへ向いたのだ。

枕元の小さな灯りだけをともし、二人はベッドに並んで腰を降ろした。



「香・・・。いいのか?」

「うん。今夜はずっと一緒にいたい」

素直に言葉が出てくる。

リョウの両手が香の頬にそっと触れる。

再び二人は唇を重ねた。しだいに互いの舌が絡み合い、長く、激しく・・・



  カリッ



ふいに香の全身から力が抜け、リョウの胸に寄りかかった。

「おい、香、どうした!しっかりしろ。」

香は意識がない。

が、どうやら眠っているようだ。



(
し、しまったぁ!! おれの歯に仕込んだ即効性睡眠薬だ!・・・・・・ふ、不覚・・・)

香をベッドに寝かせ、リョウはその横で煙草を燻らせた。

(
あ〜あ、いくらおれだって意識のない女ともっこりなんてできねえよ・・・)

(
ま、楽しみはとっておくことにするか。でも、このくらいはさせてくれよ、香)

火を消すとリョウは香の横に滑り込み、肩をぐっと抱き寄せた。

「おやすみ、香。いい夢みろよ」






朝のまぶしい光が寝室へ差し込み、香は目覚めた。

「う、う〜ん」



(
まだ起きたくないなぁ。あぁ、あったか〜い。気持ちいい。モゾモゾ・・・・・・えっ?)

一瞬、香は状況がよく飲み込めなかった。恐る恐る薄目を開けると、

目の前にヒトの胸板があり、自分はどうやらこのヒトの腕枕で寝ているようだ。

(
ゲゲェ!こ、これは・・・。ひょっとしてリョウ?!)

(
ちょっと待て、ちょっと待てよ〜)

必死で昨夜の出来事を思い出す。が、後半が霧の中のようにはっきりしない。

(
あたし達って、・・・もしかして、もしかしちゃったの?・・・)



「うん?香、起きたのか?」

リョウがあくびをしながら言った。

(
ひぇ〜!お、起きちゃった)

「お、おはよう。リョウ」

慌てて応える。

「あぁ、おはよ、香」

そう言ってリョウは香の額に軽くキスをした。


(
きゃぁ!!こ、これは間違いないのかしら。あたしったら全然覚えていないよぉ)

「リ、リョウ。あ、あのさ、夕べは・・・

「あぁ、良かったぜぇ〜。

香ちゃんったら意外と激しいんだからん。リョウちゃん恥ずかしい!!」

・・・な、な、なっ」

「うっそ〜ん。よく見てみろよ。ちゃ〜んと下着つけてるだろうが」

「あ、あ、そうか」


(
ホッ。良かったぁ。あれ?本当に良かったのかな?)


「あれぇ、もしかして香ちゃん、ボクちゃんとそうなって欲しかったのぉ?

そうならそうと早く言ってよぉ。」

・・・こ、の、 もっこり男!!よくも、あたしの下着姿を見たなぁ!!」


1000tの恥じらいハンマーが振り下ろされた。


「そんなぁ〜。か、香ひゃ〜ん。」




(
こ、これでいいんだわ。これで元通りの生活ができる。

そうじゃないとあたし、リョウの顔まともに見られない!)



(
くっそ〜。人の気も知らんと〜! ま、あせることない・・・かな?時間はたっぷりあるさ)





<End>

























































































































































































































































































                      
 
<あとがき>

なんとこれは、私が生まれて初めて書いたシテハンの二次創作物です。

『DEAR CITY LIFE』さまに投稿したのは、2000年の10月でした。

この、夢路様のサイトが残念ながら閉鎖になりましたので、こちらに引き取りましたが、

なんとまぁ、拙い文章。痒い表現。思わずセリフが鳥肌もんだし、砂吐きそうなゲロ甘ですね。

こんなブツを押し付けていたなんて・・・・・・。夢路様、ごめんなさい。

若気の至り、ってヤツです。許してやってください。

投稿していた当時は、撩は「リョウ」と表記していましたので、そのまま記載しました。






  ムツ  「甘っ・・・甘すぎっ」

  撩   「・・・なんか、オレ、すっげぇ格好悪いんだけど、気のせいか?」

  ムツ  「いや・・・・・・気のせいじゃないと・・・・・・」

  撩   「だよな。今のオレなら、こんなんで照れねぇぞ」

  ムツ  「私もあんたも若かった、ってことだよ、うん」

  撩   「で、オレは年々くどき上手になって・・・」

  ムツ  「うんうん」

  撩   「お前はだんだんババアになった、と」

  ムツ  「な、なんですとぉ〜〜〜っ?!」