秘 密




「え・・・。嘘・・・!!」



香は、新聞をまじまじと見た。

「あ、あたってる・・・・」

もう一度、まじまじと、手持ちの小さな紙と新聞の紙面を見比べた。

「う、嘘・・・! やだ、当たってる〜〜っ!」

思わず大きな声を出して、万歳をしたが、次の瞬間、はっと気付いて口を

両手で押さえて周りを見回した。

リビングのドアをそのままの姿勢でしばらく見ていたが、自室でいまだ惰眠を

むさぼる男は起きてくる様子がない。

ホッと胸をなでおろすと、宝くじを胸に押し当てて、香はうっとりと目を閉じた。





朝、ベッドで目が覚めた撩は、首をかしげた。

首をかしげてもう一度時計の時刻を確認する。

いつもなら、香がハンマーを片手に起こしに来ている時刻だ。



・・・どうしたんだ?



不穏な気配は今まで感じられなかった。

シャツに袖を通してあくびをかみ殺しながらリビングのドアを開けると、

香が椅子に座って頬杖をついてた。

その顔は、ニヤニヤとしている。



「香?」

声をかけても反応がないので、ポン、と肩に手を置くと、香はびくっとして

振り向いた。

「あ、りょ、撩。おはよう。自分で起きてくるなんて珍しいじゃない?」

いつもの風を装っているが、それがかえって不自然だ。

「お前こそ、こんな時間まで起こしに来ないなんて珍しいじゃねぇかよ」

「あ、そそそう? た、たまには寝かしておいてあげようかと思ってね。

 ほら、いつも夜遅いしさ」

ははははは、と乾いた笑いを浮かべると、香は立ち上がった。

「朝ごはん、支度するね」

鼻歌交じりにキッチンに向かう香を、疑惑の目で見ながら、撩は呟いた。

「・・・・あやしい」





「じゃあ、伝言板見てくるからね〜♪」

「おう」

いつもより軽い足取りで出て行く香に、撩はソファに寝そべって雑誌を見ながら

答えた。

軽い足音が聞こえなくなると、撩はその身を起こし、自分もその後をついて行った。





「こんにちは〜」

「こんにちは、香さん。・・・ご機嫌ね、どうしたの?」

「え、そ、そそそんなことないわよ?」



・・・・・なんでわかるのかしら。



香は、内心びくびくした。

「あら、嘘よ。いつもより、だんぜんにこにこしているもの」

にっこり笑う美樹に、ちょっと不安がわきあがった。



・・・・・もしかして、撩にもばれたのかしら。



当たったお金は撩に内緒で使うつもりでいたので、それは困る。

非常に困る。



「・・・・・そ、そんなに機嫌良さそう?」

「ええ、すんごく。何があったの?」



帰宅後のポーカーフェイスをしっかりと決意し、実はね、とその決意もどこへやら、

香はにこにこ相好を崩して話した。



「実はね、宝くじが当たったの!」

「へえ、すごいじゃない、香さん。いくら?」

「1万円! もう、うれしくってうれしくって」

「何枚買ったの?」

「それがね、一枚なの。運試しに買ったから。今年はきっといいことがあるわ!

 依頼がばんばん入るとか、撩のツケが全部なくなるとか」

うっとりとする香に苦笑しながら、美樹は足元にちらりと視線をやって尋ねた。

「で? 冴羽さんにはもう話したの?」

「まっさかあ。これは、撩には内緒で使うの」

えへへ、と笑うと香は、コーヒーちょうだい、と言った。





じゃあね、と店を出て行く香にまたね、と手を振って見送ると、美樹はグラスを

拭きながら言った。



「で? 安心した? 冴羽さん」

カウンターの美樹の足元から立ち上がると、撩はひとつ伸びをした。美樹に

触ろうとするたびに思いっきり踏まれていたせいで、体中に足跡がついていた。

「安心って、何が?」

そらとぼける撩に、美樹はふふんと笑った。

「隠し事が宝くじで」

「アイツ、宝くじに当たったなんてちっとも言わなかったぜ。けしからん。

 俺は、100枚買って外ればっかりだったのに」

腕組みをして撩はうんうんと頷きながら言った。美樹はその様子に肩をすくめた。

「香さんたら大変ね。何でも知っておきたいなんて人に見込まれて」

「パートナーのくせに、隠し事なんてだめだつうの。それだけだよん」

「お願いがあるんだけど、なんて言って両手を合わせたくせに」

くっくっくと美樹は口元を押さえて笑った。

「だって、アイツ何にも言わないし、こっちはナニカあったんじゃないかとだなあ・・・」

ぶつぶつとわずかに顔を赤らめて言う撩の背中を押して美樹は意味深に笑った。

「さ、早く帰ったら? 大事にしておかないと、今度こそ、ヒミツを持たれちゃうわよ」

「美樹ちゃんとならヒミツを持ちたいなあ」

抱きついてくる撩を拳で沈めて、美樹はまたグラスを拭き始めた。

「・・・・まったく、世話が焼けること。じゃあね、冴羽さん」

「ちぇっ。美樹ちゃんに振られたから撩ちゃん帰ろう」

しょんぼりと肩を落として出て行く撩に、美樹はくすりと笑った。



「自分は、宝くじより高倍率のものに当たっているくせに」



美樹は、今日の夫との夕食のメニューに思考を移した。


<End>


【ムツゴロウの呟き】

美樹ちゃんの言うとおりだそ、撩。
あんたは何億分の一かの確率でお宝に巡りあったんでしょ。
この〜〜〜っ、幸せものめ!!
め〜さま、ありがとうございます。
タイトルはムツゴロウがつけましたが、まんま、ですね。がふっ