give and take




ヤツには絶対に知られてはならない。

あたしは部屋で両手に握り拳をつくってひとり頷いた。



それは一枚の「宝くじ」だった。

しかしわざわざお金を出して宝くじを買う余裕など冴羽家にはない。

3000円以上お買い物したら「宝くじ一枚プレゼント」

そんな殺し文句に誘われてそのクジ一枚欲しさにそのスーパーで買い物

したのだ。



庶民にささやかな夢を与えてくれる宝箱の鍵のようなもの

まあほとんどが夢に終わってその幸運の紙はタダのゴミになるのだが・・・



クスクスクス・・・

ニヤケる顔が元に戻らない

それもその筈・・・



目の前にはヒサビサにお目にかかった愛しの福沢諭吉様・・総勢15人。

ああっ・・ありがとう神様っ!!



ヤツに知られるときっとナンパに飲み代に消えること間違いなしだ。

だから知られる前に使ってしまうのが一番良い。

どうせ生活の為に使うんだからさ、事後報告でいいでしょう!



さてさて・・・何に使うか・・・



まずは滞っていた公共料金の支払いに回した。

滞納していたクセにかなり態度XLで水道局と電力会社の受付で支払いを

済ませた。

一気に精算はかなり気持ち良い。そして浮かれ気分でその場を後にした。



よかった・・こんな便利な世の中であやうく原始人生活を強いられそうに

なっていたからなぁ。



さて次は・・と

ニヤケる顔を必死で取り繕ってポケットから雑誌の切抜きを取り出すと

あたしは公衆電話へと駆け込んだ。








「いらっしゃいませ、槇村様。お待ちしておりました」

扉を開けると営業スマイル全開の女性が迎えてくれた。

そこはお金持ちの有閑マダムやお嬢様御用達の都内で人気の清潔感

溢れたエステサロン。

いつもこの場所を通る度に溜息を付いて“あたしには無縁よね”と

回れ右をしていたのだ。



だから一度行ってみたかったんだよね〜〜。

やっぱりあたしも女だからさ・・好きな人の為に綺麗でいたいと思うわけよ。



一応・・所謂「男と女」の関係になってからも相変わらず甘い言葉一つも

掛けてくれない男に一度でも「綺麗だ」といって欲しい・・と。

淡い期待を持ってみたりしてるんだけど・・・。



バスローブに着替えてまずはフットバスで足からリラックス。

ホコホコと身体が温まってくる。そして次にベッドにうつぶせになると背中へ

甘い香りの液体が落とされた。



「まあ・・お客様。綺麗なお肌していますねえ・・・」

「・・そうですか?」

背中をマッサージしてくれる手の感触と辺りに漂う薔薇の香りが身体と心を

癒してくれる。

その心地よさに自然に瞼が降りていく。

「・・お客様って・・」

「・・え??」

「・・・・愛されていらっしゃるんですねぇ」

「///・・・・」

“何を”見て言っているのか解って・・・ちょっと恥かしくなった。



一回、90分で二万円。

きっと最初で最後の贅沢だわ・・・





買い物を済ませて家に帰るとてっきりナンパで留守だと思っていたアイツの

姿に驚いた。

“なんで今日に限って居るかな〜〜ホント。”

「・・・ただいま〜撩」

いつもどーりに声を掛ける。

「おー・・」

リビングで煙草を吹かしながらテレビに視線を落としたまま。

「今から夕飯作るからね〜〜」

キッチンへ逃げ込むように足を向けるといきなり手首を掴まれた。

「お前さ、なんか付けてる?」

撩の顔があたしにズイッと近づいてくる。



“ドキンッ”

あ・・いやいや、ときめいている場合じゃないぞ自分!



「えっとっ・・こっ・・香水っ・・デパートで香水を試したのよねっ」

「ほぉ〜〜〜?」



うわっ〜〜我ながら苦しい言い訳だな〜っ・・

しかも声が少し上ずってしまったけど・・



「その香水高かったろ」

「・・へ?」

「“一回で”いくらしたんだ?香水」

ニヤッと笑う男の顔。

「・・げっ!アンタッ・・もしかして」

「お前、街中で浮かれすぎ」

「!!!」



思いっきりバレてるし!しかも目がイってるよ〜〜っひええ〜〜っっ!!

あたしの頭に警告音が激しく鳴り響く。



「・・・お前だけイイ思いをしてきたという訳だ・・」

ジリジリとあたしは撩に壁際に追詰められてお互いの息がかかるくらいの

距離で視線が合った。



「・・・・・・・」

「・・な・・に?」



暫くの沈黙にあたしは溜まらず口を開いた。

撩はあたしの身体を抱き上げると足早にリビングを後にする。

「お前・・俺の部屋に直行決定〜〜」

「〜〜っ!ちょ・直行はイヤ〜〜〜〜っっ!!!!」



香の声がリビングにむなしく響き渡った。






<FIN>



【ジルさんの言い訳】

なんなんだ・・このブツ。
お話になってないような気が・・
ごめんね×1000!
ムツさん・・ごめん!逃亡しますわ(泣)



【ムツゴロウの呟き】

やっぱりなぁ〜〜〜!こうきたか!!
ツルツルお肌のカオリンをヤツが見逃さないはずはない。
結果的には、二人でお金使えていいじゃん。(爆)
でも、カオリンの言葉にして言って欲しいっていう気持ち
わかるなぁ・・・うんうん。