あぶない海辺

後編

 

撩ったら、どこ行っちゃったんだろ・・・



行き先も告げずに撩が去ってからしばらくの間、香は一人で日光浴を楽しんでいた。

しかし、さすがに30分以上経ってくると心配になる。

依頼人のガードも放っぽりだして一体何処へ行ったのか。


           

ビールでも買いに行ったのかなぁ。

ちょっと探しに行ってみようっと・・・



砂をほろって立ち上がった香の視界が急に陰る。

顔を上げると、目の前を塞ぐように数人の男が取り囲んでいた。

香の姿が見えないことに気付いた撩は、慌てて周囲を見回した。

海の家も覗いてみたが、目指す姿はない。

          


おいおい、あの格好のままどっか行っちまったのかよ。

だけど、荷物が置きっぱなしだったのが気になる。

何かを買いに行った様子でもない。

まさか――




悪い予感が増し、歩調が自然と早まる。

梅雨が明けたばかりの海辺は、若いカップルや女性達でごった返していて

なかなか思うように歩けない。

トップレスで寝そべる女性に思わず目が行きそうになるが、

理性のカケラが慌てて引き戻す。



あぶないあぶない、オレは香を探しているんだ。

くっそ〜〜〜〜! これじゃぁ、ナンパもできやしねえ。

あいつ、いったい何処にいるんだ?!

          



キョロキョロと探していると、なにやら人だかりが目に映った。

数人の男達の喧騒と、野次馬が集まっているようだ。



―― ケンカか?



そう思った撩の耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。



「結構ですって言ってるでしょ!」



イラついた香の声だ。

          


なんだ? 香の奴、絡まれているのか?

おいおい、こっちにもあぶねぇ奴がいるじゃねぇか・・・

        


  

考えていたような最悪の状態ではなかったことに、ほっと安堵の息をつく。

しかし、からかうような男達の声に奇妙な腹立たしさを覚え、人混みを掻き分けていった。



「そんなこと言わずにさぁ、オレ達と一緒にどっか行かない?」

「いやよ。私、連れがいるから・・・」 

「君みたいな綺麗な子、放っておく男なんかよりさ、ね?」

「やめて! 触んないでよ!」

「俺達と遊ぶほうが楽しいに決まってるって。さ、行こう行こう。」



嫌がる香の手を強引に取って歩き出した男は、その腕を逆手に捻り上げられて叫んだ。



「いってぇ〜〜っ! 何すんだよ!」

「撩?!」



目の前に現れた見慣れた姿に、香はほっとした表情を浮かべた。



「おい、汚い手で触るんじゃないよ。」



邪魔をされた男達は喚きだした。



「うるせえんだよ。何だよ、テメエ。」

「目障りなんだよ。こんな所で騒がれるとな。」



憮然とした顔で男達を見回し、睨みつける。



「おっさんには関係ねえだろ!」



男の一人にそう呼ばれた撩は、ピクリと片眉をあげた。



「おっさんで悪かったな! こいつはオレの女だ。ガキは引っ込んでろっ」

「な、何だと?!」



あまりの迫力に男はたじろいだ。そして仲間の一人が殴りかかろうと腕を振り上げたが、

撩はひょいっとかわし、手刀を見舞わせた。

その素早い動きに男達は青ざめ、互いの視線を合わせる。



「これ以上煩わせんなよ。とっとと消えろ!」



とても敵う相手ではない―― 

そう悟った男達は、倒れこんだ仲間を抱えて渋々引き上げていった。

それを合図にするかのように、周りの野次馬たちも、ゾロゾロと戻っていった。

          


撩がやれやれ、と振り返ると、香は呆然と立ち尽くしている。



「ったく・・・お前がフラフラしているから、あんな奴らにナンパされるんだぞ。」



近づいて髪の毛をくしゃり、と掻き揚げると、泣きそうな顔になった。



「だって。撩、なかなか戻ってこないから探しに行こうと思って。」

「あ?悪かったな。」

「どこで、何やってたのよ。」

「何って・・・陽子のストーカーを捕まえてた。たいしたことなかったぜ。」



拍子抜けしたような声で香は言った。



「ウソ!もう、終わっちゃったの?」

「ああ。」

「依頼は全部片付いたってこと?」

「そういうこと。」

「じゃあ・・・・・・・・・もう、帰る?」



香が一瞬寂しそうな顔をしたのを、見逃すはずはなかった。

空を仰ぐと、まだ陽は高い。眩しい光に目を細める。

もう少し、香の水着姿を拝んでいくっていうのも、悪くないな・・・



「いや。せっかくだから、ゆっくりしていこうか。」

「ほんとに? やった〜!」



香は嬉しそうにはしゃいで、撩の腕に自分の腕を絡ませた。


もう 離れんなよ      うんっ

special thanks to sae-chan !




「ね、ね。じゃあさ、海にも入ろうよ。久しぶりだし。」

「それもそうだな・・・だけど・・・」

「なによ。ダメ?」

「・・・もう少し、静かな所に移動しないか?人が多すぎる。」

「構わないけど・・・・」



素直じゃないわね、あんたって。

くすくす・・・



「なんだよ。」

「べ〜つに。」

          



オレの女――  か・・・


オレの女――  ね・・・




「・・・撩」

「ん?」

「さっきは助けてくれて、ありがとね。」

「べ〜つに。たまたま通りかかっただけだよ。」


ふふふ・・・


「なに、笑ってんだよ。」

「べ〜つに。」

「・・・・・・」



ま、いっか・・・

       

          

          <End>




         <あとがき>

          皆様のところでは、梅雨は明けましたか?

          夏はやっぱり海がいいですよね〜。

          ってことで二人を海へ強引に連れ出してみました。

          でも、この時とばかりにウヨウヨと出てくる

          あぶない奴には注意しましょう。あと、クラゲにも。(笑)

                                

          今回、素敵な二人の挿絵を紗栄子さまから頂きました。

          いっつもいっつもありがとう〜〜。紗栄ちゃん、ラ・ブ。

           ムツ 「あたしさ、この話の中では、あんたが一番あぶない奴だと思うな。」

           撩  「なに〜!どうしてオレなんだよっ」

           ムツ 「むやみやたらと人様に銃を突きつけちゃあ、ダメダメ♪」 

           撩  「ふん! 悪かったな!」 

           ムツ 「ところでさ、この日、まっすぐアパートに帰ったの?」

           撩  「ん?・・・・・・ あたり前だろ」

           ムツ 「何なのよ、今の間は。 あんた・・・まさか・・・」

           撩  「・・・」 (逃げっ!)

           ムツ 「こらっ 待て〜〜〜!!」